III-2-2. 沿岸漂砂過程

  1. 定義 .ほとんどの海岸において波の来襲方向は様々に変化するので,漂砂の移動方向も日々にあるいは季節毎に逆転する.例えば,ある年のある期間には海岸の漂砂移動方向が右向き(海に向いて)で,また残りの期間で左向きというように変化する.左向き・右向きの輸送をそれぞれ QLおよび QR と表示し,さらに移動方向に関する検討のために QR を正,QL を負とすれば,一年当たりの正味の輸送量は QNET = QR + QL である.従って,正味の沿岸漂砂量はQR >|QL| の時に右向きで正,QR < |QL| の時に左向きで負である.年間の正味の沿岸漂砂量は,ゼロからある大きな値までバリエーションがあり,1年当たりの漂砂量が100万立方メートルと見積もられる海岸すらある.年間の沿岸漂砂の総量は QGROSS = QR+ |QL| と定義され,方向を考慮しない漂砂の時間的な絶対値の合計を表す.ある海岸において非常に大きな沿岸漂砂の総量を有しても,正味輸送が実質的に0であることもあり得る.沿岸の底質移動に関するこれらの対照的な2つの量は工学面で異なる応用性を有している.例えば,沿岸漂砂の総量は感潮入り江の航路が浅くなる程度を予測する際に利用することが出来る.一方,正味の沿岸漂砂量は河口導流堤や防波堤において,漂砂上手の堆積と下手の侵食の割合に関係している.(しかし,ある場合には後者が沿岸漂砂量の総量を捕らえている場合もあることに注意されたい.)

     

  2. 漂砂移動のモード.

     

    1. 漂砂移動は2つのモードに区別される.すなわち,底質が乱流拡散により底面より離れた状態で輸送される浮遊輸送と,底質粒子が底面に接したままで回転と跳躍により移動する掃流砂の二つである.ただ,概念的にはこのような区別が出来るが,現地海岸で上記の2つの移動モードを別々に測定することは困難である.これら2つのモードが輸送量総計に寄与する割合には相当な不確定性が残っており,研究者により異なる見解が存在する.



    III-2-3. 沿岸漂砂量の大きさの予測

    1. 沿岸漂砂の時間変化と持続性.

       

      1. 沿岸漂砂量は図III-2-7に示されるように変動をしている.ここで,図中で正とは海に向かって底質が右に輸送される場合,負は左に向かう場合であると定義する.これは,以前にWalton (1972),Walton and Dean (1973),Dean (1987)や他の研究者によって利用された表記法であり,本書においてもこれに従うこととする.図III-2-7において正味の沿岸漂砂量Q は時間平均された輸送量であり,次式で与えられる.


        (III-2-18)




        図III-2-7. 沿岸漂砂の定義


         

      2. 沿岸漂砂量の総量は次式で与えられる.


        (III-2-19)

        ここで, To:観測記録期間であり,通常1年以上に設定する.また,|Q |:沿岸漂砂移動量の絶対量である.沿岸漂砂量の総量は常に正値として定義される.沿岸漂砂量総量に期間を掛ければ,その量は方向にかかわらず海岸線に垂直な面を通過する底質の全容積を表わしている.一方,正味の沿岸漂砂量は正になることも,負になることもある.